オタール・イオセリアーニ映画祭@渋谷シネ・アミューズにて
群盗、第七章
1996年/フランス=スイス=イタリア=ロシア=グルジア/カラー/122分
ストーリーなどは公式サイトにて 「群盗、第七章」詳細
いやー、驚いた! 凄い!
超絶技巧によって、まさに 「歴史は繰り返す、そして全ての悲劇は喜劇的である」ということを視覚化している。映画にしかできない表現を駆使して、7つの時代の情景を縦横無尽に往還して、らせん状に連なる複数の人生を描き出す。善悪の彼岸を超えて、人々の営みを冷徹に見つめるまなざしは、根底に人間性への信頼があればこそなのだと思う。(残虐行為すら日常的所作として描かれるところがミソかもしれない)
それにしても、脚本も書いて編集もしたイオセリアーニ監督の頭の中は、いったいどうなっているんだろうと驚愕するばかりだ。あるいは、真の天才とは、遊びのようなまたは酔狂のような手つきをしながらも、このような傑作を生み出しえるものなのかもしれない。
また特筆しておきたい点として、
・撮影が素晴らしい。
名手ウィリアム・ルプシャンスキーによる澄みきった空気感を含んだ繊細な画面が美しい。特に、ほとんどのシーンで、光と影が細密に捉えられている点には驚いた(作為的な調子ではなく、自然な感じに見せている。それは時に人物の顔が影となることも辞さず徹底している)。
・切り返しがほとんどない
人物の会話シーンを捉える際も、その場の全景を含んだ引きのショットとなっていることが多い。主観ショットもほとんどない。そのようにして、冷静さを保ちつつ、人物たちを等価に扱うまなざしを向けている。
・ダイアローグが少ない
セリフに頼らなくても充分に見応えのある映画はありえるのだということに気づいて、ハッとしました(いわゆる説明的なセリフなんて別になくたって、他にやりようはあるというわけです)。また、これは何といっても、イオセリアーニ監督がサイレント映画的な演出を充分に体得していて、アクションに対しての反射神経が大変細やかだからでもあるといえるでしょう。
四月
1962-2000年<復元版>/グルジア/モノクロ/48分
ストーリーなどは公式サイトにて 「四月」詳細
セリフなしで映像と音(楽)だけによる、可愛らしいデビュー作。ジャック・タチを思わせるような音と動作のシンクロや、たくさん出てくる椅子おじさんたちなどなんだか過剰なところが面白い。ユーモアたっぷりに若いカップルの愛のかたちを描いて、ほのぼのさせられる。
歌うつぐみがおりました
1970年/グルジア/モノクロ/82分
ストーリーなどは公式サイトにて 「歌うつぐみがおりました」詳細
ヌーベル・ヴァーグのような瑞々しさに目をみはる。遅刻して本番中に駆けつけてくるティンパニー奏者のギアは、女の子と見ればちょっかいを出さずにいられないし、とにかく調子がよくて、ルーズなんだけど、悪気がなくて憎めないヤツ。彼の日常はあくせくしているというよりも、なんだかバタバタ駆け回るのが愉快そうに見える。