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by sonobasho
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中島貞夫「日本の首領」三部作についての別の視点
中島貞夫監督による“日本版ゴッドファーザー”ともいうべき傑作「日本の首領」三部作のDVDが7/21に発売とのこと。

先週まで行われた<遊撃の美学 映画監督・中島貞夫> @新文芸坐で見ていて、いい意味でなんとなく引っ掛かりを感じるものがあった。
中島貞夫作品を今回の機会にまとまった形で、ある程度は年代を追って見ることができたのだが、この三部作については何か異質なものがあるような感じがする。

70年代後期の作として、プログラムピクチャーから大作志向へと東映の体制も移り変わっていくさまが作品に反映されているという見方もできるかもしれない。
それ以前の猥雑さが持ち味の作風から、ウェルメイド志向に移ろうとしているとも見受けられるような節もある。

あるいは、全く個人的な見方なのだが、この三部作をストーリー性とは違う角度から捉えてみると、次のようなポイントが指摘できるかもしれない。

三部作では、それぞれ人間にとって命取りとなってしまうもの(人が絡めとられてしまうもの、つまりそれは人間が執着せずにはおられないものに他ならない)をモチーフとして描いているのではないか。

つまり、1作目「やくざ戦争 日本の首領」では、それは任侠道や義理人情といった集団における対人関係なのかもしれない。千葉真一や鶴田浩二が絶命しなければいけなかったのは、任侠道をベースにしたヤクザ集団の対人関係のほころびということなのかもしれない。

そして、2作目「日本の首領 野望篇」では、おそらく男女間の恋愛あるいは反恋愛関係なのではないか(より小さい二者的な対人関係となる)。佐分利信の下の娘や、南洋の大統領に見初められたホステスや、そして松方弘樹が、生き永らえることが困難となったのは、当人を取り巻く過酷な状況のせいもあるが、同時に恋愛についての諦観や絶望もあったかもしれない。

さらに、3作目「日本の首領 完結篇」では、それはずばり、病気や克己ということで、もはや対人関係ですらなく、個的な、自我と身体との関係、もしくは現実的自我とこうありたいと望む理想的自我との関係というレベルにまで達しているのではないだろうか。敵に勝ったと思ったものの佐分利信もまさに病には勝てなかった訳だし、まだ若く健康なはずの高橋悦史も最後には自滅のような形で命を捨ててしまうのは、周囲に流されてすっかり汚れてしまった自分に対する罰だったのかもしれない。

それはともかく、3作目に関しては、身体性というポイントで捉えてみると、大変興味深いと思う。
例えば、車椅子のヤクザという菅原文太の役どころは身体性を封じられた存在として反転した凄味を醸し出しているといえるのではないか。
また、大物フィクサーの片岡千恵蔵に至っては発端部の病床のシーンでは、病臥しており横になった状態でほぼ顔のみに限られた登場となっている。また、その後でも、ほとんど座っているなどして、身体性とは著しく切り離されている。千恵蔵の顔のアップでの芝居がほとんどとなるが、つまりは、まさに顔役として文字通り「デカイツラ」そのものが表されているともいえよう(実際、見ていて本当にデカイ顔だなあとつくづく実感した)。むしろ、彼にとっては身体性はあまり必要とされず、本人が手を下さずともすべての場合において配下の者が事をなす訳なので、その顔をきかせてくれさえいればよいのである。端的には、顔のみで彼の存在の全てといえるかもしれない。
そして、1作目から一貫して登場しており、ようやく3作目にして物語の主軸に躍り出ることになった高橋悦史が、身体性に対して特権的になりえるところの医者であるというのもまた興味深い符牒といえるかもしれない。
(付記:あるいは、3作目において、最も異様なものとして、終盤にて覇を制したと確信して浮かれ気味の佐分利信が踊るシーンがある。それを見た時にひどく驚くとともに、瞬時にこの作品の鍵は「そうか、身体性だったのか」と気づかせられた)

◆1作目
やくざ戦争 日本の首領  (1977.01.22公開)東映京都 カラー 132分
監督:中島貞夫 原作:飯干晃一 脚本:高田宏治
出演:鶴田浩二、佐分利信、千葉真一、松方弘樹、高橋悦史、菅原文太

◆2作目
日本の首領 野望篇 (1977.10.29公開) 東映京都 カラー 141分
監督:中島貞夫 原作:飯干晃一 脚本:高田宏治
出演:佐分利信、三船敏郎、松方弘樹、成田三樹夫、高橋悦史、菅原文太、岸田今日子

◆3作目
日本の首領 完結篇(1978.09.09公開)東映京都 カラー 131分
監督:中島貞夫 原作:飯干晃一 脚本:高田宏治
出演:三船敏郎、佐分利信、菅原文太、片岡千恵蔵、高橋悦史
by sonobasho | 2004-07-14 04:41 | どう観たか?
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